From:藤岡将貴
あなたはこの広告を見たことがありますか?
これは、日清食品のカップ麺「どん兵衛」の広告です。同社はあるキッカケをもとに、この広告を使ったプロモーションをウェブで行ったところ、広告の公開直後、あっという間にツイッターで拡散され、Yahoo!ではトップページに取り上げらました。
このプロモーションが行われた当時「どん兵衛」は発売40周年とのことで、通常はロングセラー商品の売上が急に上がることはないそうですが、この広告を公開した数日後には「店頭からどん兵衛だけが消える」という現象が起こりました。売上は前年比150%まで伸びたそうです。
なぜ、今日この広告を取り上げたのか?というと、この広告が生まれたキッカケと、そのキッカケを広告に転換する方法が、僕たちマーケッターにとって、とても参考になるし、使えると思ったからです。
また、もしあなたがたった1つとか、数少ない商品だけを売っているビジネスをしているのなら、「どん兵衛」が発売し始めて40年も経過しているにも関わらず、再びヒットさせることができたこの事例が、既存商品の売上をアップさせる1つのアイデアになると思ったからです。
では、「どん兵衛」はどうやって、発売40年のロングセラー商品の売上を前年比150%にすることができたのでしょうか?見ていきましょう。
ネットで調べてみると、この広告は日清食品社内で生まれたアイデアではなく、あるタレントの1つの発言がキッカケでした。
「どん兵衛」はお湯を入れてから「5分」後に食べるようにパッケージに書かれていますが、彼はその時間に疑問をもっていたそうです。そこで、2倍の「10分」待って食べてみたところ、「麺がツヤツヤ、ツルツルになった」とのこと。そこで、彼は自らがパーソナリティを務めるラジオ番組でこれを話したところ、ツイッターやYahoo!などで一気に拡散。テレビでも取り上げられるなど、大きな反響を呼んだとのことです。
こんなふうに思いもよらぬ形でネットで話題になっていることを知った「どん兵衛」のキャンペーン担当者が、さらにツイッターを検索してみると、「日清食品はこの噂を知っているのか」「日清に聞いてみたい」と話題になっていたのを知りました。そこで担当者は「緊急対談、日清はなぜ10分どん兵衛を作らなかったのか?」というキャンペーンを企画。そのタレントと「どん兵衛」を担当するブランドマネージャーの対談キャンペーンをウェブで展開したところ、たくさんの人が「10分どん兵衛を試してみたい」と思い、購入したようです。ツイッター上では、実際に試した人のツイートが続出し、中には人気ドラマ「下町ロケット」に出演していたある俳優もツイッターで絶賛していたそうです。そうして、前年比150%のヒットとなった、ということなんです。
ここで僕たちにとって学びとなることは「新しいアイデアはお客さんの声から生みだされることがある」ということです。この「どん兵衛」では、「10分待ってから食べる」という、いちお客さんが発案した”新しい食べ方”から、セールスのアイデアを思いつきました。このように、お客さんはときとして、売り手側が想定していないような、意外な使い方をしていることがあります。そして、その意外な使い方によって、既存の商品が今までのお客さんとはまったく違う新しい人たちに売れる、ということもあります。
例えば、ある食器乾燥機。市場には1万円以上する製品が多いなか、あるメーカーは小型化して約5000円という低価格で、独り暮らしや新婚夫婦といった少人数家庭向けにこの食器乾燥機を販売しました。ですが、この食器乾燥機、、、“プラモデルの塗装乾燥”のために使い勝手がとても良いということで、プラモデルを趣味としている人たちの間で人気を集めたそうです。他にも、以前、【レスポンス】のブログで山田さんが書いた”5枚刃のハサミ”もそうですね。
僕たちもそんな経験をしています。僕たちが販売している商品の中に、コンサルタントの北岡さんの「インターネットマーケティング・コンサルタント養成講座」という商品があります。この商品は当初、コンサルタントとして起業したい人をターゲットに「コンサルタントになれる」というベネフィットで企画しました。が、実際に講座の参加者を調べてみると、半数以上がすでに自分でビジネスをされている社長でした。彼らは「自社の商品やサービスをインターネットで売る」ために、この講座でインターネットマーケティングを学んでいたのです。
このように、お客さんの意外な使い方から、セールスの新しいアイデアが生まれたり、新しいターゲットに新しいベネフィットで商品が売れたり、ということが、そこらじゅうで結構起きているのです。これは、どれだけ売り手側が頭をひねって会議をしても生まれてこないアイデアでしょう。
では、どうやったら、そんな意外な使い方を知ることができるのか?「どん兵衛」の例は、ネットで話題になったことで、”偶然”新しい食べ方を知ることができました。でも、偶然ではなく、もっと確実に見つける方法があります。それは、お客さんに「どんな使い方していますか?」と直接聞くことです。もっといい方法が、実際にお客さんが使っている様子を見させてもらうことです。
お客さんは無意識のうちに意外な使い方をしている場合もあるでしょう。それが普通だと思っているかもしれません。たしか、家電メーカーの企画担当者は、定期的にユーザーのお宅を訪れて、使い方をヒアリングしている、という話を聞いたことがあります。そのようにしてお客さんに直接聞いたり見たりすることで、思いもよらない新しい使い方、新しい売り方のアイデアが見つかることもあるでしょう。ぜひ、あなたもやってみてはどうでしょうか?
この「10分どん兵衛」。「お客さんの新しい使い方から企画したキャンペーン」という点ともうひとつ、セールスコピーの面からもヒットの要因と言えるものがあります。それは、、、「謝罪」という低姿勢な広告にしたことです。
もう一度、この記事の最初に貼った広告の画像をよく見てみてください。いちお客さんが発案した「10分待つと麺がツルツルになる」という新しい食べ方がネットで話題になっているという事実を、売り手側がそれを知らなかったことを素直に詫びる「お詫び文」という形の広告に仕立て上げたのです。
広告というものは、とかく上から目線になりがちです。ですので、このような低姿勢の売り方は、セールスコピーのアイデアとして使える方法です。例えば、その1つが「お願い」です。「新しいスタイリストのデビューにご協力いただけませんか?」「新商品開発へのご協力のお願い」といったような「お願い」という姿勢で商品を販売する、というものです。他にも「助けてください」もそうです。「ミスをしてしまいました。助けてください…」「妻を怒らせてしまいました。助けてください…」といった、率直に助けを求めるものです。
この「お願い」や「助けてください」は、売れるセールコピーの1つのテンプレートとして、昔から使われている方法です。このように低姿勢に行くメッセージは、売り込みが強かったり、上から目線になりがちな広告の中で、注意をひくことができます。
また、過去にこんな事例があります。あるスーパーの発注担当者が、商品の発注ミスをしてケーキを仕入れ過ぎてしまい「助けてください…」といったツイートをしたところ、人気に火がついて「買ってあげよう!」運動が起こった、というものです。低姿勢な売り方をしたことで、お客さんの方から「手伝ってあげよう」「助けてあげよう」という気持ちになって、自らそのキャンペーンに関わろうとする姿勢になってくれた、ということですね。このようにお客さんをキャンペーンに巻き込むことは、キャンペーンを成功させる1つの要素、と言えます。
以上、発売40年のロングセラー商品の「どん兵衛」が、どうやって売上を前年比150%にすることができたか?その要因をみてきました。ひとつは、売り手側が知らなかったお客さんの意外な使い方を知って、それを使ってキャンペーンを実施したこと。もうひとつは、その「知らなかった」という事実を「おわび」という低姿勢のセールスコピーにしてキャンペーンをしたこと。この2点かな、と思います。「どん兵衛」が発売40年経ってヒットさせることができたように、既存商品の売上アップの1つのアイデアとして使えるのではないでしょうか。ぜひ、参考にしてみてくださいね。
-藤岡将貴
【ザ・レスポンス】の最新記事をお届けします