From:藤岡将貴
あなたは「文庫本X」と呼ばれている本を知っていますか?
この本は、昨年、盛岡市にある「さわや書店」という書店の「フェザン店」という、いち店舗がやった”ある販売方法”が理由で18万部の大ヒットとなりました。そして、この本とその販売方法はニュースサイトなどネットで取り上げられるようになり、Twitterで拡散され話題になりました。もしかしたら、あなたもご存知かもしれませんね。
そして、盛岡のいち店舗で始まったその販売方法は、たちまち他の全国の書店にも広がっていきました。あのTSUTAYAもその販売方法をマネるなど、たちまち全国47都道府県の650を超える書店に広がり、昨年12月の時点で13刷、累計18万部に達するヒットになったそうです。初版で多くても5,000~1万部くらいで、しかもほとんどが初版で終わる、とも言われている今の出版業界において、です。
さて、そんな大ヒットを生み出したその販売方法とは、どんなものだと思いますか?上の写真を見てもらうとなんとなくわかるかもしれませんが、それは、、、「本の内容を明かさずに販売した」というものです。
具体的にどんなふうにやったのかと言うと、普通、本の表紙にはタイトル、著者名、推薦文が書かれた帯、内容がちょっとわかるようなコピー、それと出版社名と価格が書いてありますよね?もちろん、この本にもそんな表紙がついているのですが、、、なんと、このお店では、そのもともとの表紙の上から、独自に作った表紙を被せて販売した、というのです。
しかも、その表紙には、本のタイトルも著者名も出版社の名前も一切書かず、何の本かわからないようにしたと言うのです。表紙には、ひとりの店員からのメッセージがぎっしりと詰まっていて、そのメッセージを読んでも、「810円という価格」「500ページを超える作品」「小説ではない」ということしかわからない、というものでした。また、店頭で立ち読みしようとしても、透明のビニールで包まれていて中身が見れないようになっていたそうです。
僕はこの本のことを知って、僕たちが売っているダン・ケネディの新商品も、この売り方でケネディ好きのお客さんに売るのも面白いなー、と思いましたw。
さて、なぜ、この本は、ここまで話題となって拡散され、18万部を超える大ヒットとなったのか?この販売方法から見えてくるその理由を考えてみました。
おそらく、一番の理由は、一目瞭然のそのパッケージにあるでしょう。価格、ページ数、小説ではないこと以外を伏せ、さらに、透明のビニールで包んで店頭で読めなくすることで、その中身を知りたいという好奇心を強く持たせることができたに違いありません。
ダン・ケネディは、人に衝動買いさせる7つの心理トリガーの1つに「秘密・神秘性」を挙げています。実際、ツイッターの投稿を見ても、普段、このジャンルの本を読まない人も、このパッケージに惹かれて買ってしまった、というつぶやきもありました。810円という価格は買いやすい価格ではあるかもしれませんが、そうだとしても、これまで読まなかった人にも衝動買いさせることができたのは、この「秘密・神秘性」で好奇心を強く刺激することができたパッケージと、そのアイデアにあると言えるでしょう。
もうひとつのポイントが、もともとの表紙の上に覆い被せた新しい表紙に綴られたメッセージです。
ただ秘密にするなら、例えば真っ黒の表紙に「?」マークをつけるだけでもできます。ですが、この本の表紙には、「申し訳ありません」から始まる、長江さんという店員さんの、この本をオススメしたい情熱やパッションが伝わってくるような531文字にわたる推薦文が、裏表紙までギッシリと埋め尽くされています。また、上の写真をよく見ていただくとわかりますが、おそらく筆ペンか鉛筆を使って手書きで書かれているのがおわかりになると思います。
このような手書きのメッセージというのは、注意を引いてメッセージを読ませるパワーがあります。ダン・ケネディのビジネスパートナーで、アメリカで最も成功を収めている紳士服店のうちの2店舗を経営しているビル・グレイザーも、10年間で送った合計180のダイレクトメールの中で、もっとも多くのレスポンスが得られたのは、手書きのセールスレターだった、と言っています(詳しくは彼の書籍「ぶっとび広告集」で)。僕たちも手書きのメッセージを封筒に書いたり、ちょっとした手書きの手紙を入れたDMを送ったことがありますが、ほとんどのケースでうまくいっています。
あなたは、売れるセールスコピーの法則の1つに「AIDAの法則」というものがあるのをご存知ですか?これは、過去何十年のあらゆる“成功した広告”を分析した結果、ほとんどすべてがこのプロセスをたどっていた、という方式です。A:Attention(注意)→Interest(興味)→Desire(欲求)→Action(行動)という流れですが、この本は、手書きのメッセージと秘密にした本のパッケージによって、これと同じことを店頭で実現して、お客さんを巧みに購入に導いています。
つまり、①店頭に山積みにされた手書きのメッセージで埋め尽くされた表紙の本で注意を引く→②メッセージを読むと本のタイトルも著者も秘密にしていることで興味を持たせる→③好奇心を刺激して読みたいという欲求を起こさせる→④購入に導く、という流れですね。
おそらく、Amazonで同じ販売方法を使っても、ここまではうまくいかなかったのではないでしょうか?山積みにされた実物の本が目の前にあって、手にとって見ることができる実店舗だからこそ、より効果を発揮した方法だと思います。
いかがでしたでしょうか?僕なりに考えた、この「文庫本X」のヒットの要因をまとめると、本を秘密にして好奇心を持たせたこと。そして、手書きのメッセージによって注意を引き、秘密というアイデアをもたせた本にうまく誘導したこと。この2点かな、と思いました。物販をされている方には、この流れは参考になるのではないでしょうか?また、商品を秘密にして好奇心をもたせる、という方法は、どんなビジネスをされている方にも使えると思います。
最後にもうひとつ。「文庫本X」として売って大ヒットしたこの本。もちろん、この本を売っていたのは、この書店だけではありません。もともとの表紙で、全国の他の書店でも販売していました。また、この本は文庫本になる前に単行本として発売されていたそうですが、その時はそれほどの売行きではなかったそうです。
でも、「さわや書店」という書店のいち店舗のひとりの店員が始めた、表紙を覆い隠して秘密にするというアイデア1つで、それほど売れなかった本を18万部を超える大ヒットに生まれ変わらせたのです。
僕はこのニュースを知って、マーケティングの面白さとパワーを改めて感じました。本を作った出版社ではなく、売り手である書店のいち店員のこんなアイデア1つで商品を大ヒットさせることができる、という1つの証明となった事例だと思いました。このさわや書店のウェブサイトのトップページには、「想像力は知識より重要である」というアインシュタインの言葉がありました。あなたも、ぜひ、こんなワクワクするような売り方ができないか、想像力を働かせて考えてみてください。そしたら、マーケティングがもっと楽しくなって、ビジネスも今よりもっと楽しくなるはずです。
-藤岡将貴
PS.
現在では、この本のタイトルは公開され、表紙には実際の本のタイトルが入っているそうです。興味がある方は「文庫本X」で検索してみてくださいね。
PPS.
この書店がやったように、秘密を作って好奇心を刺激して販売する方法は、どんなビジネスでも使える方法です。もちろん、僕たちも使っています。その方法を詳しく公開しているプログラムが、来週から販売開始します。興味がある方は、来週火曜日からのメールをチェックしてくださいね。
【ザ・レスポンス】の最新記事をお届けします