From:リッチ・シェフレン
またとないビッグチャンスを逃してしまった、という経験はあなたにもあることでしょう。「ジョーズ」「未知との遭遇」「レイダース失われたアーク」という大ヒット映画を立て続けに生んだスティーブン・スピルバーグ監督は、1982年、その次の大作映画となる「ET」の制作に忙しく取り組んでいました。
その映画「ET」の中で、主人公の少年がM&Mチョコレートをあちこちに置いて、隠れているETを誘い出すシーンがあります。
脚本には、M&Mチョコレートと書いてあったので、ユニバーサルスタジオはM&Mチョコレートを販売しているマース社に電話して、映画での使用許可をとろうとしました。
マース社の意志決定の背後にある本当の理由を知っている人はいないかもしれませんが、最高経営責任者のジョンとフォレストのマース兄弟は、ケチな上に、次に何をするのか予測できない、暴君のような経営者として有名でした。(ただし公平を期すために言っておきますが、ユニバーサルスタジオもマース社に脚本の最終版を見せようとしませんでした。)
あまりにもケチだったためか、単に自社のブランドを守ろうとしただけかはわかりませんが、どちらにしてもマース社はスピルバーグ監督の申し出を断わったのです。あなたはおそらく、この話の先が読めてきたことでしょう。
スピルバーグ監督とユニバーサルスタジオは、マース社の市場での競合他社と組みにいきました。ちょうどハーシーフーズ社がリーセスピーセスという商品を売り出したばかりでした。リーセスピーセスとは、M&Mチョコレートと見た目がそっくりで、中身がチョコレートではなくピーナツバターという商品です。
ハーシーフーズ社はリーセスピーセスを映画で使用することに合意しただけでなく、100万ドルの宣伝費を使って映画を宣伝する代わりに、ETをリーセスピーセスの宣伝に使わせてもらうという取り決めをしました。
この後、リーセスピーセスの売上は推定で三倍になったそうです。マース社は1本とられました。ところが「スターダム」へのし上がるチャンスはもう一度訪れたのです。
10年近く経った頃、今度は「となりのサインフェルド」という人気テレビ番組の制作者が、マース社にアプローチしてきました。エレインの元カレが手術を受けるシーンで、M&Mチョコレートを使いたいというのです。脚本では、空飛ぶM&Mチョコレートが、大手術のシーンの重要な小道具として面白おかしく使われることになっていました。
ところが、このときもマース社は「いいえ、結構です」と断ったのです。そこで「となりのセインフェルド」の番組スタッフはトッツィロール社に連絡し、同社が買収したばかりの商品ジュニアミントを使わせて欲しいと頼みました。
そして、そのシーンがテレビで流れたときは、まるでジュニアミントのコマーシャルが延々と20分間も流れたかのようでした。
そのシーンとはこうでした。クレイマーが「ジュニアミントって最高だよね?チョコレートとミントの組み合わせが絶妙で、めちゃうまい!」とクレイマーが言うと、「まったくその通りだね!」とジェリーが答えるというシーンがあったからです。
ジュニアミントは、まったく宣伝費を払わずに、数百万人が視聴する番組に出演して一躍スターになったのです。スターといっても、人間ではありませんけどね。とにかく、計りしれないほど大規模に大衆の目と耳にさらされ、知名度を獲得しました。このとき、ジュニアミントは「プロダクト・プレースメント」という広告手法を使って、望む効果を出した最初の商品になったと言えます。
すでに獲得したものを守ることに必死になり、単にコストや安全性だけに基づいて意志決定する手法は、起業家が陥りがちな悪い例の1つです。
今までと違うことをやろうとするときにリスクはつきものです。未知のチャンスに飛び込んでも、望んでいた結果が得られない可能性もあります。しかし行動しなければ、得られる結果は確実にゼロです。
ゴルフのパターで、カップに届かない短いショットでは100%カップに入ることはありません。
ステップアップしたいという意志、予測されるリスクを取る意志がなければ、チャンスが訪れても何も変わりません。これから先もずっと、今までとおなじ状況で生きていくだけです。今までと同じ軌道を進むだけです。スピードアップすることも、コース変更もありません。同じことを続けていくだけです。
なので、どんなチャンスがあなたのビジネスの軌道を変え得るのかをよく考えてみてください。そして、ぜひリスクを恐れず、新しいことにチャレンジしてください。
より高い利益のために
リッチ・シェフレン
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